どっかん太郎の日々隠忍自重ブログ

どっかん太郎が日々隠忍自重を心がけるブログです。

認証百合・プロローグ

この記事は百合SS Advent Calender 2018の23日目の記事となります。

adventar.org

「サヨナラ、アリス」

そう言って少し悲しげに微笑む彼女はきっと、私と違ってサヨナラを言い慣れているのだろう。

今年の流行語も、今年の漢字も決まり、テレビも東京オリンピックの話題に飽き始めていたあの日。 彼女の家の前。いつもならば学校からの帰り道で、私と彼女が別れを告げるT字路にて。

伊武崎さんは私に対し、最後の挨拶を投げかけた。


伊武崎アリサさんは今年の4月、私達の中学校に転入してきた転校生だ。

ロシア人の父と日本人の母を持ち、両国の言語もペラペラ。しっかりとキューティクルがケアされた栗毛色の髪は、日本の学校ではとても特徴的な存在だ。 染料で染め上げたのでは、と憂うほどに美しく蒼い瞳に睨まれてしまうと、あの生徒指導の先生ですらもたじろいでしまう。

そんなかわいい盛りの14歳の美少女が、かわいいセーラー服を普段から身にまとっているのだから、正直卑怯なまでにかわいい。一文にかわいいを3回使用し表現してしまうほどには、同性の私から見ても愛くるしいの存在なのである。

とはいえ4月の当初、伊武崎さんは無口なタイプだと思われていた。 私も最初は彼女が日本語に慣れていないのだろうかと思い込んでいたが、実際は周囲の人間の方が彼女に声を掛ける行為をはばかっていただけだったらしい。

一方でわたくし有栖川よし子は、話題の伊武崎さんとの交友関係を深めたいという一心を秘めていた。 だからこそとある朝、私は一念発起し、

「ず、ずとーらーすとびーちぇ!」

などと緊張しい一声をかけさせて頂いたのである。 これは一晩で覚えたロシア語のご挨拶のつもりだ。

小難しそうな小説を読んていた彼女はびっくりして、私の方をきょとんとした顔で見つめると、

「ひょっとしてそれ、挨拶のつもり?」

と苦笑を浮かべながら返されてしまった。

この10秒にも満たないやりとりにより、彼女との後に8ヶ月に渡る交友関係はあっさりと幕を開けてしまったのである。

それから私達は14歳という多感な時期を、ひたすら川辺やカラオケで雑談するという贅沢な帰宅部活動に費やした。

内容は趣味、価値観、日本とロシアの考え方の違いから、好きなクレープの具や猫の動画に至るまで。 1つ1つはくだらないことばかりであるものの、喋れば喋るほど彼女の日本語に対する貪欲さを理解することができた。 どうやら彼女の側でも私から吸収した知識は生かされていたらしく、それは彼女が苦手としていた国語の期末成績へと如実に反映されていた。

親しくなってからの彼女は、私のことをアリスと呼んだ。本当は終わりにガワ、まで付けてほしいのだが、そのほうが呼びやすいのであれば仕方ない。

一方私の方からは、最初から最後まで伊武崎さんだった。あだ名でも下の名前でも自由に呼びなさいよ、と彼女は時折ぷりぷりと怒ったが、どうにもこの方がしっくり来るのだから仕方ない。 それにアリスとアリサではイントネーションが似ているから、私の方が間違えてしまうじゃない、と軽く反論したのだが、それは私が分かるからいらない心配よ、と一言で流されてしまった。

結局しっくりとくるあだ名は、最後まで思いつかなかった。

夏休みは二人で海まで遊びに行ったり、秋には一緒に模試を受けに行ったり、冬に向けておそろいのコートを買いに行ったりしていると、季節はあっという間に12月を迎えてしまう。

今思えば、彼女がこの頃から何かを言いたげにしたり、そわそわする様子に対して、何かしら怪しむべきだったのだろう。 彼女が重い口を開いたのは、1週間後のクリスマスパーティへの参加を渋る理由について、私が問いただす段階に至ってからだった。

つまりは、あまりにも遅かったのだ。

彼女はずるいやつだ。 だから今夜の便で彼女が日本を旅立つという事実に対してすら、私の中でこれっぽちも実感が湧いてこないのだ。


次の瞬間、私は彼女の手首を掴んで引き止めていた。

「……ずるいよ!」

「アリス……」

「伊武崎さんにとっては、何回かある転校のうちの1回かもしれない!だから私も、数ある友達のうちの1人かもしれない!」

「……っ」

「でも私にとっては違う。貴女は私に初めてできた、ロシア人と日本人のハーフの大切な友達」

一度言葉が口から決壊すれば、もうそれを止めることはできない。

「伊武崎さんが友達でいてくれて、隣にいてくれるだけでも、私は誇らしかった。貴女の表情に笑みが浮かべば一緒に嬉しくなるし、貴女が悲しい表情をすれば理由を問いたくなる」

「アリス、お願い。もうやめて……」

「でもこんな最後ってある?この感情が私の一方的な思い込みで、ワガママだったとしてもいい。でも、貴女には……少しだけでもよかった。別れを惜しんで欲しかった。私達にとっての8ヶ月が、こんなにもあっさりと閉じるものであって欲しくはなかった」

「そうじゃない、そうじゃないけど……」

「じゃあどうして?どうして1週間前になるまで教えてくれなかったの!」

「…… 5 лет」

「えっ?」

「5年よ」

「なっ、何がよ」

「私が日本に帰ってこれるまでに、最低でもかかる年数」

ごうんがらんがらん、ごうんがらんがらん、と鐘の音が低く唸る。 私が口を開いた瞬間に、ニコライ堂の鐘は声をあげる行為そのものを抑制した。 沈みかけた夕日が照らしあげたのは、いかにも人工的で、不自然で、それでいて寂しげな伊武崎さんの笑顔だった。

「ロシアにいる親戚のおじさんがね、お仕事でちょっと問題を起こして、モスクワに強制送還されたの。それに伴って家族も帰国する義務が生じたから、最短でも日本への渡航許可が降りるのにかかる期間が5年」

「そんな、そんなむちゃくちゃな話って……」

「そう、馬鹿げてるし、むちゃくちゃな話。だからねアリス、貴女には私のことを忘れてほしかったんだ。私の存在そのものを、記憶のカケラも残すことなく。大切な友達だからこそ、貴女が最も傷つかずに、数年経てば古い思い出となるように」

「そんな、そんなのってあんまり……!」

「でも貴女のことが嫌いなわけじゃない。これだけは信じてほしい」

伊武崎さんが顔を上げ、こちらに向き合う。 「だってさアリス、私は嬉しかったから。心の底から、本当に嬉しかった。パパの転勤に連れられて引っ越しばっかりだった私にとって、初めてできた親友がアリスでいてくれて」

「伊武崎、さん……」

「アリス、ごめんなさい。だから今日で私なんかとの思い出をさっぱり忘れて、明日から新しい友だちでも作って、アリスには幸せな学生生活を送ってほしいの。これは私からのお願い」

「分かった。伊武崎さんがそういうなら、私はそうする。でも……1つだけ聞かせてほしい」

「……」

「伊武崎さんはさ、自分から望んでロシアに行くの?」

次の瞬間、伊武崎さんは私の胸元に飛び込んでいた。 「……親友と初めてのクリスマスを過ごせないような運命を、私が望むとでも思った?」

抱きとめた彼女の体は、小刻みに震えていた。 私には彼女の頭を、髪の毛にクセがつかないように、優しくなでてやることしかできなかった。

「5年後のクリスマスに、また会いましょう」

伊武崎さんの思いつきにより、また明日、ぐらいの感覚であっさりと5年後の約束が交わされてしまった。 「5年後かぁ……その頃に私達はもう20歳?」

「じゃあきっと大学生で、お酒も飲めるようになってるわね」

「ひょっとして、もう東京オリンピック?」

「いや、それはまだもう少し先じゃないかしら」

「5年後なんて、全然想像がつかないわね。その頃にはきっと新しいiPhoneのモデルが出てるんでしょうけどね」

今の私達にとって最後の雑談を賑やかしている間に、1人の女性が私達の元に近づいてきた。 伊武先さんのお母さんだ。 「アリサ。お話中悪いけど、そろそろ時間が……」

「あっ、そうだった。飛行機は待ってくれないものね」

「伊武先さん……」

「それじゃあアリス、また会いましょう。5年後に」

「でも私達、5年も経てば姿形も変わっちゃって……もう再会しても、お互いが分からないかもしれないわ」

「確かにそうね」

「じゃあ伊武先さん。合言葉を決めておきましょう。再会した時お互いに『ネリネ』と口にするの」

ネリネ?」

「そう、花言葉は『また逢う日を楽しみに』」

「まぁ素敵ねアリス……アイデアは悪くないわ。でも……」

「でも?」

「その単語、私5年も覚えられないわ」

2013年12月23日16時21分 認証百合・プロローグ 完


宿題: 彼女らが5年後に再会した際、どのようにしてお互いを認証すればよいか?

おにゃんこポン百合

OP

お〜にゃんこポンポン♪

おにゃんこポンポンポン♪

(繰り返し)

\ オニャンコポ〜〜〜〜ン /

(タイトルロゴ)

あらすじ

凛奈(頭に球体を取り付けた女)は雄の先輩に告白され、そのまま付き合う流れになる(11話)。

一花(黒髪ストレートの女)は作り笑いを浮かべた後、表情を隠すため彼女に背を向ける(12話)。

天界

「あの下界の女子高生共の文化祭もやっとこさ終了ニャ。緊張もほぐれて、どっと疲れたニャ〜……」

おにゃんこポン様、おにゃんこポン様!一息つくのはまだ早いですよ!」

「ん?ハムスター、慌てて何事ニャ?」

「黒髪ストレートの女が教室で悩み事を抱えてるみたいです!」

「ニャニ?これ以上何を悩む事があるんだニャ?しょうがない、見てやるかニャ……」

下界

文化祭から数日後、放課後の教室。

「ハァ〜ッ……まさか、あんなポッと出の先輩に先を越されるなんて……うぅ、悔しい悔しい……」

「一花?こんなところでどうしたの?」

「あっ!凛奈……えへへ。あのさ、改めてだけど文化祭、大成功に終わってよかったね」

「うん!練習の成果を精一杯出せてよかったよ〜」

「あの、凛奈のさ」

「うん」

「その……付き合う事になった先輩もさ、ダンス喜んでくれた?」

「え?もう別れたよ」

「早くない!?」

「ダンス見終えた瞬間に、何かセンスが違うって即断されて」

「判断早くない!?」

「あ、先輩はもう新しい彼女見つけたって」

「移り気早くない!?」

「でも両親が猛反対したから、高校退学して駆け落ちしたんだって

「行動早くない!?」

「今北海道に居るんだって」

「移動早くない!?」

「彼は毎日カニ漁船に乗って、侘しい暮らしの稼ぎにしているそうよ」

「定住早くない!?」

(えっ、じゃあ凛奈は今フリーって事!?それじゃあ私にもチャンスがある!?でも恥ずかしくて言えない、どうしよう……)

\ そんな時には〜この魔法のダンスだポン! / (シュルシュルシュルシュワー)

おにゃんこポン(80年台歌謡曲調)

お〜にゃんこポンポン♪

おにゃんこポンポンポン♪

(繰り返し)

愛したあの人 今はいずこへ

エティセン?先輩 (ガーナ語 : 元気ですか?)

私はメホイェ (ガーナ語 : 元気です)

今はあの人 カニを追ってる

カニマンボウを (シャンガーナ語 : 元気です)

言う暇も与えず

いつかはコブラよ (ガーナ語 : 戻ってきてね)

メパーチョ!ブラ!ブラ! (ガーナ語 : お願い来て!来て!)

それまで私 どうすればいいの

お〜にゃんこポンポン♪

おにゃんこポンポンポン♪

余韻

「じゃあ凛奈、私と付き合わない?」

「えっ!?」

ED

デン!

デン!

デン!デン!デン!

(中略)

パパヤパ〜ヤ〜パ、パパヤパ〜ヤ〜

パパヤパ〜ヤ〜パ

解説

※これは百合SS Advent Calendar 2017の7日目として書かれたことになっている文章です。

adventar.org

そして確認する限り、世界初のおにゃんこポン二次創作百合です。

参考文献

使えるガーナ現地語講座(チュイ語) | Yoshiken Travel presents Let's go Ghana!

カニマンボウ!(シャンガーナ語で「ありがとう!」) モザンビークの女性や子どもたちのために公民館を建設したい!(竹内よし子(えひめグローバルネットワーク代表理事)) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)

ウィングダイバー百合

「あらかた殲滅できましたね、先輩」

「待って」

先輩の静止は小声でもよく聞き取れる。 速やかに視界の端でレーダーの赤ポイントを確認した。 7時の方向、100m先に1匹。武装はボルトガンRAに切り替えておく。

「やれるか、新入り?」

「はい!」

照準を合わせ、ベータ侵略生物を屠る。 と同時に緊急チャージが始まり、ピウンピウンと喧しいアラーム音が周囲に響き渡ってしまった。

「あっ」

あぁ……やってしまったか。

緊急チャージはエネルギー管理ができていない証拠、訓練学校で嫌というほど叩き込まれた常識の1つだ。

「どうした?」

「あっ、いえ、その……緊急チャージしてしまって、私もまだまだだなと……」

「ここじゃよくあることだ。あえて緊急チャージすることで、速やかにエネルギーを満タンにするテクニックもある」

「そ、そうなんですか?」

「エイリアン相手にはマニュアルじゃ立ち向かえない。覚えておけ」

先日初陣を飾ったばかりの私にとって、先輩の金言は全て新鮮だ。頭によくよく刻んでおこう。


「残り1匹ですね」

「いや、あれは残しておけ。アイテム回収にかかるぞ」

「何故です?」

「敵勢力を全滅させたら直ちに引き上げ命令が出されるからだ。特に緑色の箱が大事だから、くれぐれも取りこぼすなよ」

「はっ、了解です!」

しばらくして、目ぼしいものはあらかた取り終えた。

「これぐらいでいいですかね」

「ああ、終わらせてくれ」

私はボルトシューターRAに切り替え、最後の1匹に照準を合わせる。 ベータ戦略生物……私達が普段"クモ"と呼称している生物の縮尺を100倍ぐらいにスケールしたそれは、紫色の体液を吹き出し、断末魔をあげ、回復アイテムの束を吐き出し、最後はただの肉片として地面に転がった。

ごめんなさい、などという感情ももはや湧いてこない。 私達は地球を蝕む害虫を、淡々と駆除している。ただそれだけだ。

《よくやった、ウィングダイバー。早速だが別の箇所で新型エイリアンの報告が……》

無線機はノイズ混じりに新たな戦場の有りかを示す。

「ハァ、日本中行ったり来たりで私達も引っ張りダコですねぇ……先輩?」

先輩が構えるプラズマ・グレートキャノンの照準は、紛うことなく私に向けられていた。

それは引き金さえ引けば、いつでも発射できる状態にある。

「先輩……例え冗談だとしても、そういった行為は遊びで済まされませんよ? 難易度INFERNOなんで味方からの被弾率は100%。 爆風で先輩も私も吹き飛んで死にます」

「……"INFERNO"って何だ?」

「えっ……あれ、私、何か言いました?」

「そういう単語が口から出るあたり、お前は既に……向こうの人間なのか?」

「っ……何の……事ですか?」

「とぼけるな。結論から言おう。戦闘中我々は何者かに操られ、何度も同じ戦場をループしている。 そうでなきゃEDFの武器庫がこんなにも充実しているわけないし、我々が最初からフェンサー並の耐久値を有しているはずがない」

「先輩、こんな悲惨な戦場に何度も駆り出されてショックなのは分かりますが、その……頭の方は大丈夫ですか?」

「私は至って冷静だ!」

叫び声を聞きつけたのか、周囲の兵士が何事かとぞろぞろ集まってくる。

「お前にも覚えがあるはずだ。敵を殲滅し終えた後、唐突に視界がブラックアウトし、気がつくと我々は次の戦場に駆り出されている。我々はこれを繰り返すだけの道化として遊ばれているに過ぎない……それこそマザーシップを破壊するまでの間ずっとだ」

「……っ」

「もうじき我々の意識は失われ、本ミッションはクリアしたという結果だけが残る。我々の生死に関わらず、だ。そして私もお前も有象無象の1つに戻る。私はどうなっても構わないが、お前にはお前のままでいてほしい。だからお前に私を刻みたい」

「それで……私を殺すんですか?」

「逆だ。命令する、私を殺せ」

「え……?」

「これは私がお前に向ける一方的な好意であり、呪いだ。次の戦場で私を殺したという記憶を刻み続けろ。我々を弄ぶ者共に中指を突き立ててやれ。そしていつの日か、絶対にマザーシップを破壊しろ」

「無茶苦茶ですよ……」

「では3数える前に撃つ。その前に撃ち返せ。3, 2, ...」

「先輩」

「何だ」

「1つだけ教えてください、何故私にだけそんな……?」

「簡単な理由だ。至極簡単な理由……お前が初めて私を慕った大事な後輩だからだ」

「……分かりました、ありがとうございます」

私はプラズマ・グレートキャノンの射線上を歩み寄った。

「そこまで言うなら、私を撃って証明してください」

「何故だ」

「私馬鹿だから、先輩の言っている事が本当か嘘か判断できません。でも貴女は私にとって初めての先輩だからです」

「……馬鹿が」

どうかしてるだの、止めろだの、私達を引き止める隊員の野太い野次はもう聞こえない。

閃光が私達を包んだと思った直後、22649ダメージをまともに正面からくらい、私はこのイカレた先輩と心中した。 周囲から見るとそう思えるだろう。


ブリーフィングルームの外に出ると、見知った顔が目に入った。

「先輩!今日も楽しいカエル狩りの時間ですね!」

「新入り……ひょっとしてお前覚えてないのか?」

「……?」

先輩は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているが、何か気に障る事でも言っただろうか?


※これは百合SS Advent Calendar 2017の24日目として書かれた文章です。 adventar.org

ウィングダイバーの武器スペックについては、以下のWikiを参考にさせて頂きました。 ウイングダイバー - EDF5:地球防衛軍5@Wiki - アットウィキ

Miss. プリオネアには華園しゅうかの全てが詰まっているからとりあえず聞いてくれ(後半)

本記事はWORDIAN Advent Calendar 2017の18日目として書かれた記事です。 adventar.org

どっかん太郎です。無事にTexlive2014, 2015をトラッシュし、Texlive2017の導入に成功したので、修論もきっと捗るに違いありません。(ここまで時間かかるなら来世ではぜひBasicTexをね・・・・)

それでは昨日の続きからということで、早速本題に移りましょう。

本日の目的

昨日ご紹介したMiss. プリオネアについて、注意深く拝聴することで新しい発見を目指していきたいと思います。

また先人として、Miss. プリオネアの歌詞(アニメ放送分)から華園しゅうかちゃんの性格や夢川くんらとの関係性について端的に鋭い考察を述べられたSara様のブログがこちらになります。素晴らしいまとめですので、こちらの内容にも少し触れつつ考察したいと思います。

sosopure.hatenadiary.com

他投稿のプリパラに対する考察もyee。

準備

まずは楽曲がなければ話になりません。 2017年12月6日発売のミニアルバム+DVD*1アイドルタイムプリパラ♪ソングコレクション~ゆめペコおかわり!~」 を購入して*2 iTunesに取り込みます。

また当方残念ながら女児ではないので、思考をより女児に近づけるためベロンベロンになるまで酒を胃袋に仕込みます。

構成

一度リスペクトの意味も込めて、このMiss. プリオネアという楽曲を構成する人物について注目してみましょう。

歌: 朝比奈丸佳

言わずもがな華園しゅうか役を務めている、比較的新人の女性声優さんです。「NEW GAME !」のねねっち、「ひなろじ」のリオネスなども担当されています。あっ、93年生まれ・・・・?私と同い年ですね。

作詞: 児玉雨子

ハロプロの「アンジュルム」「カントリーガールズ」など、アイドルグループへの歌詞提供を中心に活動されている若手女性作詞家・作家さんです。 一瞬えっ、あのアンジュエル・・・・と見間違えましたが、アンジュルムでした? いかん危ない危ない・・・・。

あっ、彼女も93年生まれなんだ・・・・。

同い年が声優やら作詞家やらで社会にデビューしているのを見るのってさ、なかなか心にくるものが(中略)続けましょう。

作曲: michitomo

こちらも「ももいろクローバーZ」「アップアップガールズ(仮)」など、アイドルへの楽曲提供を中心に活動されている音楽プロデューサーさんです。 何と言ってもPrizmmy☆への楽曲提供、キンプリでもお馴染みTRF楽曲の編曲という経歴で、プリリズ時代からプリパラを追っている古参幼女先輩には何か唸るものがあるのではないでしょうか。

Miss. プリオネアでのシンセやキックの音に聞き馴染みがあるのも頷けますね。

編曲: KOJI Oba

こちらも上記のアイドルへの楽曲提供を行っている作曲・編曲者さんです。 経歴を拝見したところ「走れ!(ももいろクローバーZ)」などでもmichitomoさんと一緒に仕事をされているようです。

ということでご紹介した児玉氏、michitomo氏、Oba氏の三人ですが、アイドルタイムプリパラ中では他にも

「チクタク・Magicaる・アイドルタイム!」

「あっちゃこっちゃゲーム」(編曲はかずぼーい・michitomo)

「Gira ギャラティック・タイトロープ」

などなど、素晴らしい楽曲の数々を提供しております。 なんだこの名曲クリエイター集団はたまげたなぁ・・・・。

kodama-ameko.com

いざ実践

いざ実践です。心を落ち着けてから楽曲を再生します。 なお以下の歌詞は全て歌詞カードを参照としておりますが、手打ちなので誤字があるかもしれません。ご了承ください。

イントロでは軽快で爽やかなキック音が4拍、8拍、16拍がわずか8秒の間に盛り上がった後、一気にサビの主旋律がゴージャスに流れ始めます。 後ろのドンドンするやつはパンチのあるキックとでも言えばいいんですかね。 おじさんEDMはよく知らないけど耳が幸せになるやつです。

ところで最初にこれを聞いた時、同じ女児向けコンテンツ、キックが強い、お金持ちのお嬢様ということで、オトカドールというアーケードゲームに登場するライバル・ウエステちゃんの持ち歌「イツモノワタシ」を思い出しました。 これも一時期iPotTouchに入れてから狂ったように聞いていたのでオススメです。 www.youtube.com

しかし何事も歌い出しが肝心です。最高潮とも言えるイントロから繰り出される歌い出しは・・・・

〽パンがないなら 作ってやるわ

あっ、ダメだこの子絶対優しいじゃん・・・・・・!!!

説明するまでもなくマリーアントワネット(が発言したと噂される)のあの名言の改変ですが、これがここまで心打つものになるとは、という驚嘆の一言に付きます。

ヒモにたかられた華園しゅうかちゃんが、しょうがないわねと言いながら天然酵母を仕込む段階から始める様すら目に浮かんでくるようです。

ここで後輩から意見があってなるほどと思ったのですが、「作って【やるわ】」は二通りに解釈することができます。

私はてっきり先述の姉の存在を先に思いついたので、「〜してあげる」という献身の意味合いで捉えていましたが、「存在していないなら自分から率先してやろう」という「〜してやる」の意味合いとしても捉えることができました。 う〜む、日本語はこういうところがあるなぁ(面白い)。

〽努力投資 惜しまずにサプライ

〽汗かく姿 見せるものか 弱音はゲンキン

彼女は無駄な事に時間を費やしません。 でも努力に費やす時間は惜しまないし、かと言ってその姿は自身のファンにも見せていません(地獄ミミ子は除く)。

う〜〜〜ん、アニメ作中の彼女の姿と言行一致なんですよこれが。

〽あれが欲しいな お得かな

〽少しの苦労も当然でしょ

〽女の子は美しく ノブレス・オブリージュ

ここでは倹約家である彼女の面も見せています。 ノブレス・オブリージュnoblesse oblige)と言えば「東のエデン」をご覧になった方は耳にタコが出来るほど聞いているかと思われますが、「高貴さは義務を強制する」「高貴なるものの義務」などの意味を持ちます。

彼女は倹約や美しくなるために努力を費やす事も、当然であると言い切っているわけですね。

〽宵越しの夢は見ないの まぶたを開いて今日から

〽瞳に飛び込む現実は アイドルタイムイズマネー

この「宵越しの夢は見ないの」は、今作主人公・夢川ゆいくんとの決別を如実にした一文(他にもありますが)だと個人的には思っています。

夢川ゆいくんの基本スタンスは夢を信じていればいつかは絶対叶う、という理想主義ですが、華園しゅうかちゃんの基本スタンスは夢を見ている時間があったら自分から叶える、という現実主義です。 この2人の考え方の違いは正義と悪っぽくて好きなのですが、まぁ今後アニメ作中でも決定的になっていくかと思われます。

1日の始まり。目を覚まして、今日も1日アイドルタイムマネーじゃぞい、といったところですかね。

そしてここは曲調の流れもいいですね。 歌詞の「現実は〜♪」のところで16拍の重たいキック音がスッと抜け、「アイドルタイムイズマネー!」が滑り込む。 EDMではよくありがちなサビ前かもしれませんが、思わずヤッターと叫びたくなってくる感覚を覚えます。フロア熱狂。

ちなみに「アイドルタイムイズマネー!」の部分で、アニメのダンスシーンでは「チャリ〜ン」という効果音と共にコインが飛び散ります

〽Miss Miss プリオネア 「ゴージャス!」

〽トキメキは時価でおいくら? 「How much?」

トキメキもお金で買える時代になったということでね。

〽限りある時を数えて 「キャピタル!」

〽愛し方なら知ってるの 「イェイ!」

Capitalってどんな意味だっけと思ったら、「資本」「金融における資金」でした。 ジュエルペットシリーズのサブタイみたいなイェイ!の雑感も好きです。

〽More!! Miss Miss プリオネア

〽リアリズミカルに踊るわ Oui

リアリズミカルって何やねんと思いましたが、realとrhythmicalの融合語という感じですかね。 唐突に登場したOuiはフランス語の「はい」ですが、まぁ彼女もプランス帰りの転校生なのでね。

ところでこの英単語も決して少なくない歌詞、リアル女児先輩はどのように受け止めていらっしゃるのかしら(女児としての素朴な疑問)。

〽夢なんかよりも ねぇ

〽何よりも実感が欲しいよ マテリアル!

はぁぁ・・・・(クソデカため息)。

今更だけどさぁ、小学六年生のいたいけなアイドルにさぁ、夢なんかよりも実感が欲しいなんて歌わせる、プリパラとかいう罪づくりなコンテンツはさぁ・・・・!

実感、すなわちアイドルとして成功を収めるという彼女にとっての最終目的ですね。 派手な金言(ちょっと上手いことを言ったつもり)が散りばめられた本曲の歌詞の中で、唯一ここだけは華園しゅうかという女の願いが、叫びとして込められています。

分かります。おじさんだって実感が欲しいです。

ちなみに曲だけ聞くと一見「実感」が「時間」に聞こえますが、これはミスリードです。 韻を踏んで2番の歌詞では「時間」になっています。


という事で1番の歌詞だけでも、昨日列挙した華園しゅうかちゃんの性質がこれでもかというほどに詰め込まれている事がお分かり頂けたかと思います。 では既に想定の2倍近く文面を割いてしまっているので、惜しい所ではありますが、2番以降については特に注目のフレーズを選んでピックアップしたいと思います。

〽キラキラビジュー ケーキ パルファム

〽寂しさを全てトレードオフ

〽女の子に生まれたからには輝くよ

ここで聞きなれない単語がプリパラおじさんの脳に直接打ち込まれ、大半が脱落します。 ビジュー(bijou)はフランス語で「宝石」の意味、パルファム(parfum)も同じくフランス語で、濃度が高めの香水(パフュームと同じ)を指すそうです。

寂しさを全てトレードオフの解釈は何ともいえないところですが、寂しさという負の感情を押さえ込んだまま、ノーブレス・オブリージュに基づいて自分は美しく、輝くため努力しなければならない使命感に追われている・・・・と言ったところでしょうか。 この辺りのひずみは、アニメでも描かれそうで楽しみです。

〽Miss Miss プリオネア 「ゴージャス!」

〽未来はダイヤよりもコウカ 「How rich ?」

〽ゆずれない かたいプライド 「ラビッシュ!」

〽私らしさの保証書 「ですわ〜!」

ここでは児玉さんがお得意とする、言葉遊びが非常に上手く使われています。

アイドルタイムイズマネーを口癖とする彼女にとって、なんと時の価値は金銭の象徴であるダイヤモンドよりも高いと言い切ってしまっています。 こういうところからは華園しゅうかちゃんのお金に対する現実的な考え方、金は好きでも金に溺れない一面が見られてとても素敵です。

ここからは大分個人的な解釈になりますが、合いの手の「How rich?(「未来は」どれくらいコウカなんだ?)」に対する答えが以下の2文になるのでは?と思われます。 それはまず将来自身がアイドルとしてトップに立つというプライドの「硬度」、 そして未来の自分が描く保証書の「価値」です。

ダイヤが有する「硬度」と「価値」と自身を比較して、それにマウンティングをとっていくという彼女の決意。 これを違和感なく言葉遊びで表現したフレーズから、改めて作詞という工程で生み出される歌詞の奥深さを実感しました。

合いの手のrubbish(ごみ、がらくた)は何に対しての発言なのか、解釈の分かれそうなところではあります。 ダイヤ?他のライバル?それともまさか夢川くん個人に・・・・(酷い)? 華園しゅうかちゃんはそんな心無いこと言わないはずです。

ですわ〜!の成金お嬢様感だいすこです。

〽両手じゃ足りない ねぇ

〽何よりも時間が欲しいよ 待てないの!

1番では実感が欲しい→マテリアルだったのに対して、 2番では時間が欲しい→待てないの!で変化しています。 マテリアルと待てないで韻を踏んでるのも好印象。

華園しゅうかちゃんの切羽詰まった本音は、まさにこの早く夢を叶えたいというところにあります。 アニメ作中でも生じた問題に対して、とりあえず困ったら金で解決しようとする節が結構ありますよね。


曲調もここからちょっとしっとりしたCメロに入ります。 アニメ版しか聞いたことないとカラオケで歌えなくなるアレです。

〽値段のついたモノは 大したことないのよ

先程のダイヤの件といい、本当に金を1つのツールとして割り切った小学六年生です。 多分性格的にギャンブルやらないでしょうけど、絶対強いですよね。

〽人生バラ色カーペット どうだ明るくなったでしょう

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彼女はお金大好きですから、お金を燃やすこと無く、自身の行動によって明るく照らすというのがいいですね。


Cメロ終わりの盛り上がりから「ドゥーーン↓」が入り、 ここからはおとなしくなったサビ、いわゆる落ちサビです。

そしてこの「Miss. プリオネア」の凄いところは、ABサビABサビCからの落ちサビ大サビというアイドルソング黄金進行でありながら、「ここにこれがスッとはいって欲しかった!」という希望に全て答えてくれるというところなんです。 ここまで進行の豊富さでお腹いっぱいになっただよぉふえぇとなったのは、多分、分島花音Wixoss劇場版主題歌「Love your enemies」以来ですかね。 全てオレ好み、と思った方は私だけではないはずです。

落ちサビではボーカルがよく聞こえるという性質上、歌詞のフレーズが特に印象に残りやすいという特性があります。

〽魔法よりもっと確かな 流してきた無数の涙

これなんですよ(嗚咽)。

万能な魔法を使えば一時的に問題は解決しますが、 それよりも自身の実績として確実に信頼を置けるのは、努力によって生じた涙だと・・・・うぇっうぇっ・・・・。

プリパラ無印で努力チームvs天才チームが接戦を繰り広げていたのも記憶に新しいですが、華園しゅうかちゃんはきっと憧れの紫京院ひびきから誘われたとしても、努力チームに属するんだろうななどと考えます。

〽笑顔でV字回復 ドキドキ係数上昇中

ここでV字回復、ドキドキ係数というワードのチョイスには思わず笑ってしまいますが、キックも歌詞に合わせてテンポを上げてきます。 EDMではもはや親のキックより聞いた4拍→8拍→16拍への変化ですね。最後の大サビに向けてテンションは爆上がり。

と、ここで靜寂が訪れます。 ヲタクがカラオケで勇み足を踏む場面ですね。

シンセの音も薄く伸び、何も聞こえなくなったところで一拍間を置いてから、

・・・

今よ、とでも言わんばかりに!

〽アイドルタイムイズマネー!

やったーーーーーーーー!!!!!

またしてもフロア大熱狂です。 ほんとにどうなってるんでしょう。

こればっかりは実際に聞いてみないと分からないんですが、この曲の技法、進行に目新しさはないものの、音の使い方が完全に聞き手の経絡秘孔へ致命的な一撃を与えているんですよ。

最後の大サビは2番歌詞の繰り返しですが、さらに最後の4小節として1番の終わり部分がリピートされています。

畳み掛けるキック連打。時間が欲しい、そして実感が欲しいという華園しゅうかの叫びによってこの曲は幕を閉じるのです。

最後に

気がついたら7000字を突破し、お天道様もすっかり昇ってしまいました。今日のプリパラも楽しみですね!

今回ご紹介した「Miss. プリオネア」の他にも「プリズムギャラクシィ・・・」がマジヤベー(アサヒ並の語彙)「Giraギャラティック・タイトロープ」などが収録された名盤「アイドルタイムプリパラ♪ソングコレクション ~ゆめペコおかわり! ~DX」は好評発売中です。 お手元に1枚いかがでしょうか?

参考文献

www.cuoca.com

d.hatena.ne.jp

chigai-allguide.com

元ネタ −どうだ明くなつたろう まとめ

*1:アニメMV入りDVDがついても300円ぐらいしか値段が変わらないので断然お得じゃ。

*2:結構売り切れてる店舗も多いです。

Miss. プリオネアには華園しゅうかの全てが詰まっているからとりあえず聞いてくれ(前半)

本記事はWORDIAN Advent Calendar 2017の17日目として書かれた記事です。 adventar.org

君は華園しゅうかを知っているか

エ〜、前投稿2つがSS(短いとは言っていない)だったので、ブログとしては事実上の初投稿です。 当方デスマス口調で文章書くのが大分久しぶりとなりますので、誤字脱字や口調の不統一などは多めに見ていただければ幸いかと。

その上これを執筆している時点では、某学会の論文(予稿)投稿締め切り前日ですからね。 よくよく読み返すと文章が精神的に追い詰められている可能性などありますが、そこはギリギリを攻めていきましょう。

サテ唐突に始まったWORDIAN Advent Calendarですが、ここまで見ていきますと結構皆様真面目に書かれているようで驚きました。

とくに卒業まで残り少なくなってきた 卒論執筆 時間(とついでに身)を削って記事を生成する、hid_alma1026先生の健闘っぷりには頭が上がりません。 まさに言い出しっぺの鑑、そしてWORD編集部員の鑑です。 あ、修論も多分フォーマット同じなんで、卒論styleファイルありがたく使わせていただきます(予定)。

そんなわけで。

私はいつも通り、気の抜けた炭酸のような記事を執筆させて頂きます。 皆様も催眠系音声冒頭の導入を聞き始めたぐらいのリラックスしたお気持ちで、ご閲覧いただければ幸いです。

そういえば先日、こんなットゥギャッのまとめがありましたね。 togetter.com 100万円だか1000万円だかあったら何に使うかだとか、サイキンノワカモノハーだとか、それに過剰反応するイキリなどがちゃんぽんした、ヒヒッッヒーによくあるやつです。 これに対して我らがOB、Phi同志によるばっさりしたまとめがこちらです。

で、内容については特に触れないんですが、人間というのはつくづくお金の使い道に悩まされる生き物だと改めて考えされられますね。 私も最近は脳内で初任給の皮算用バトルをして遊んでいます。 マッキブッキとHTC Vive一式がいい勝負を繰り広げていますが、最近外界から乾燥機能付きドラム式洗濯機が襲来してきました。 う〜ん、どれも悩ましいですねぇ〜 :thinking_face:。

仮にお金が与えられたとしても、多幸感を感じるより用途を考え始めて苦悩に至る現代人・・・・・・(想像に基づいた偏見によるレッテル)。

そんな中まるで我々を嘲るかのように、「アイドルタイムプリパラ」というアニメ作品中では、小学六年生の お金大好きアイドル が登場しました。 お金持ちでもあるのですが、お金大好きというところが味噌。 そんなん卑怯すぎて、おじさんもうメロメロです。

今日はそんな、もし100万円があったらを考えるよりも先に、100万円を自分から掴み取りに行く女

華園しゅうか

華園しゅうか

華園しゅうか

ちゃんと、その持ち歌が秘めた魅力についてここでは紹介していきたいと思います。

ここが凄いよ華園しゅうか

www.tv-tokyo.co.jp (TV東京の「リンクと著作権について」に則ってリンクを貼っています。こちらから花園しゅうかちゃんのプロフィールを辿って御覧ください。)

まずは華園しゅうかちゃんの魅力を列挙していきましょう。

「誰だよ(ピネガキ)」という方は、とりあえずピッシブの記事を拝見して頂くか

dic.pixiv.net

お時間さえ許せば、アイドユタイユブイパヤのほんへ(22話、27話〜)を拝聴して頂くということでね……。毎日アドベントするやつなんで、基本情報は割愛してここはテンポよく行きましょう。

お金持ちのお嬢様

見るからにお金持ってそうです。

でも倹約家でがめつい

ライブ終了後女児から見物料を徴集する様子には、主人公サイドも流石にドン引きです。

小学六年生にして現実主義者

「アイドルタイムイズマネー!夢を語るより現実を見据えよ、だがや!」

〜華園しゅうか(アイドルタイムプリパラ22話より)〜

この歳にしてかなり地に足のついた考え方を持っており、お金は好きでも金はあくまで目的を達成するためのツールとして割り切っています。

でも優しい

神アイドルでありながら全国を放浪するヒモの姉(華園みあ)が集りにくると、スーッとガマ口が開きます。

常に最適化を目指すRTA走者としての姿勢

彼女は日本各地へと移住し、その土地でのアイドルNo.1を奪っては去っていきを繰り返しています。 第三回アイドルタイムグランプリ優勝直後は、もはや用がないと言ってパパラ宿を去ろうとするほどストイックです。

でも努力は惜しまない

目的を達成するための努力は惜しみません。出番ギリギリまでボイストレーニングを詰め込んだり、虎の穴っぽい養成所に篭ったりします。

名古屋弁とお嬢様弁

キャラクターボイスを務める朝日奈丸佳さんが名古屋出身ということで、特徴づけられた「〜だみゃ」「でら」「だがや」などの名古屋弁と、「お〜っほっほ」「ですわ〜」などのお嬢様弁がほどよくマッチングしています。 そこに地獄ミミ子(C.V.上田麗奈、富山出身)の富山弁が入り乱れると、女児は言わずもがな、ほぼ標準語で生きてきた埼玉県民にとってもよく分からないことになります。

でもどことなくアホキャラ

これだけ高スペックアイドルながら、何故かアホの子に見えてしまう親しみやすさがあるんですねぇ〜。うーん不思議。

持ち歌「Miss. プリオネア」

そんなアイドルタイムプリパラ界に突如現れた風雲児・華園しゅうかちゃんですが、本作27話ではプリパラの肝でもある3DCGダンスシーンに登場しました。

その曲名は「Miss. プリオネア」。 プリオネアというのはミリオネアをプリパラナイズド *1 した単語です。 スペルがちょっと似てるけど、多分Prionailurus(ベンガルヤマネコ属)は関係ないです。

ダンスシーン自体については、例えばフレーム補完で60fpsにする有名なおじさんの動画など、まぁ色々な手段で見れると思うんで割愛しますが・・・・いや、本当に佳い・・・・佳いんですよ・・・・。

衣装から溢れ出るゴージャス感、自身に満ち溢れた表情から繰り出されるダンス、センスが 90年代のラブホレベルに バブリーなメイキングドラマ・・・・。

・・・・・・

あ"あ"ッッ!!!!!!

すみません、感情を間違えました。

ということでこの「Miss. プリオネア」という楽曲。 繰り返し聞いている内に、げに恐ろしい事実が判明してきました。

それは先程列挙した華園しゅうかというアイドルの魅力が、この楽曲に全て織り込まれているということです。

今回は前置きだけで終わってしまいました。 夜更かしも辛いお年頃なので、続きは明日に回したいと思います。 ごきげんよう

*1:先頭語をパに、もしくはハ行をパ行に置換する単語規則

続・秘密計算百合SS

※これは百合SS Advent Calendar 2017の11日目として書かれた文章です。遅刻しましたごめんなさい。 adventar.org

導入

f:id:rikuhiro6:20171212004640j:plain

「先輩、ご卒業おめでとうございまーす!」

数学部室の門戸を開けた瞬間、室内には乾燥した炸裂音が響いた。

後輩4人によって発射されたクラッカーの紙屑が容赦なく降り注ぐ。 大きい音は苦手なので思わず顔をしかめてしまったが、これがサプライズだと頭で理解できたので、すぐに表情を正した。

「えぇ、みんなありがとう」

私が想定していたよりも、花の女子高生という奴はあっという間だった。

結局は女子高生が女子高生たる時間なんて人生でたった3年間しか用意されていないのだが、多くの女子高生がその事実に気づく頃には、既に卒業を迎えてしまうのだろう。 つい数時間前まで現役数学部員だった私も、造花のコサージュを胸元に一輪挿すだけで、何だかずいぶんと遠い存在になってしまったみたいだ。

「いやはや、随分と豪勢じゃない」

いつもは部員達がこぞって消しカスを積もらせる数学部中央の机だが、今日は掃除した上で小奇麗なテーブルクロスが敷かれている。 その上にはやれ2Lのペットボトルコーラだの、やれパーティ開けされたポテチだのがずらりと陳列し、 アルコールの類が一切含まれない、高校生ならではの打ち上げ感を見事に醸し出していた。

「えぇ、今年度予算を使い切るいい機会でしたからね」

会計ちゃんはこめかみを指でなぞり、電卓をバチバチ叩きながら、出納帳にやたらと綿密な会計記録を書き込んでいた。

「掃除したり飾り付けしたりで、わりと準備するの大変だったんですよ〜」

書記ちゃんは背もたれに身体をだらりと預け、制服では隠しきれないその豊満な身体のラインをこれ見よがしに見せつけきた。 最後の最後までワガママなボディを見境なく見せびらかすやつだ。いつか揉みしだいてやりたい。

「……おいしい……」

副部長は相変わらずおとなしい。 棒状のスナック菓子を前歯でサクサク削りながら、黙々と口の中へ運ぶ様はリスを想起させる。

「さ、乾杯しますから先輩もコップ持ってください。お茶とコーラとピルクル、どれがいいですか?」

「な、なんでその三択なのよ。じゃあピルクルで」

流石、こういう場面で気がきくのは新しくなった部長だ。 ピルクルが注がれた紙コップを手に取り、受け取る瞬間、彼女と手が触れ合ってしまった。

「あっ……」

「ん?」

だが、彼女に顕著な反応は見られなかった。

……いや、私が気にしすぎなだけだろうか?

部長とは……先週の秘密計算の一件以来、少し顔を合わせづらいままでいる。 彼女はあの時最後に何を思って、私の頬にその、接吻を交わしたのだろうか。 所謂、ほっぺにちゅー、ぐらいだと巷の女子高生では遊びの範疇なのか?それとも本気なのか? 私は未だにその答えを聞きあぐね、ただ卒業までの日々を悶々と過ごしていた。

「飲み物は行き渡った?はい、それでは僭越ながら私、新部長の方から乾杯の音頭を取らせて頂きます。えー先輩のご卒業を祝って。かんぱーい」

「貴女達、まるで追い出すのを喜んでるみたいね。かんぱーい」

「かんぱーい」

それからはもう雑談に次ぐ雑談で埋もれ返った。 ABC予想を証明できると噂の宇宙際タイヒミューラー理論の最新動向、量子アルゴリズムで必要とされる線形代数の知識、やってみると意外と解けない日能研のつり革広告……。

数学部員達にとっての日常が、いつもどおりそこに広がっていた。

……私と彼女の気まずさだけを除けば。

「そういえば、先輩、最近アレはやらないんですか」

「アレ?」

会計ちゃんががお代わりのピルクルを注ぎながら尋ねてきた。

「アレといったら、最近先輩がお熱だった秘密計算ですよ。ANDとかORとかのやつ」

「え"っ!?」

思わずギクリ、とした。どうも秘密計算という単語そのものが、全てあの放課後の記憶に直結してしまう。

「そうですよ〜図書室から本取り寄せて結構熱心に読みふけってたじゃないですか〜」

「……確か……前に秘密計算でマイナンバーの大小比較をやろうとしたけど、あまりにも桁数が多くて無理だったんでしたっけ……?」

書記、副部長の2人が続けて疑問符を浮かべる。部長だけがただ1人、ツンとした涼しい表情を浮かべていた。 私はしどろもどろしながら返答を始める。

「そっ、そうね。一時期ハマって秘密計算の方法を色々と調べてはみたけれど、結局複雑な計算をしようとすると結構時間がかかったり、 プログラミングの知識が必要だったりでね、今のところ諦めぎみ。でも比較的準備が簡単な方法としては、カードを使って秘密計算する方法があったり、後はペッ……」

「ペッ?」

「PEZっていう……キャンディー菓子のケースを使う……方法もあるらしいわ……」

「へー……」

部長以外の面々は興味津々のようだが、私はできるだけこの話題から遠ざかりたかった。

何故語りたくないのかについて、厳密な理由を述べるために必要な根拠があまりにも不足しているためここでの深い言及は避けたいが、 あの日にあった出来事は……何というか、あくまで口外せず記憶の範疇に留めたい。そんな気がした。

当の本人へと助けを求めるように視線を送るが、鼻からそっぽを向かれてしまった。 表情はこちらから伺えないが、心の中ではニヤニヤとほくそ笑んでいる……ような気がする。

「あっ!そういえば忘れるところだったわ」

今の言い方は、流石にちょっとわざとらしすぎたか。

「ここに来る前に近所の洋菓子屋さんでケーキ買ってきたのよ。皆で食べましょ」

「え〜っ!?ケーキ〜!」

「……ケーキ!」

どうやらこの書記と副部長は、食に関して貪欲な姿勢を緩めることがないらしい。

「なんと、わざわざありがとうございます先輩。費用は経費として後で計上しておきますんで」

「いいっていいって、おごりだから気にしないで会計ちゃん。今までお世話になったお礼も兼ねてるの。 1人1つずつ、私の分も含めて全員分用意してあるわ。ええっと種類は……ショートケーキ、モンブラン、ロールケーキ、チーズケーキ、チョコケーキね」

「お〜〜っ」

「じゃあ好きな種類を選んで、かぶったらジャンケンってところかしら」

「あっ、先輩、その……」

「どしたの、会計ちゃん」

「実は私、アレルギーがありまして、その、食べられないものが……」

この瞬間、私の脳裏に閃光が迸った。

「待って、会計ちゃん!」

「は、はい?」

現代社会において自身の病歴というのも、保護されるべきプライバシー情報の1つだわ。だから言いたくなければ、貴女が何のアレルギーか言う必要はないの」

「えっ、別に隠す必要もないんですけど……」

「しかし!だからといって私達参加者から、ケーキを自由に選択する権利が損なわれてはならないわ……。 自分の要求が100%通らないにしても、第二、第三希望のどれかからケーキを選択したいのは当然の要望よね」

「まぁ、それは一理ありますね」

「つまり、ここに自身のプライバシーを保護しつつ、参加者間でケーキを妥当にマッチングしたいというモチベーションが生じたわけ」

「あっ、ひょっとして……」

「さぁ貴方達――秘密計算の時間よ」

結婚定理

「まぁ今回は秘密計算というより、安全なプロトコルと言った方が正確ね。 今回の目的はごくシンプル。

『各参加者間でどのケーキを選択したかという情報を秘匿したまま、ケーキを適切にマッチングさせるにはどうすればよいか』

となるわ。 マリシャスな参加者は存在しないものとして、全員が原則プロトコル通りの行動に従う、セミオゥネストモデルを採用しましょう」

「マッチングって、どうやるんですか〜?」

「いい質問ね、書記ちゃん。今回はシンプルに、各々が食べたいケーキのリストを紙に記入して、私が全員分のリストを見比べながら一人ずつ決定していくわ」

「……でもその場合、例えば全員ショートケーキしか食べたくない時に……当然ながらマッチングが破綻しませんか?」

「またしても良い質問ね、副部長。さすが数学検定準一級保持者」

「ぶい。数検関係ないですけど……」

「各々が食べたいケーキのリストを用意したとしても、全員が適切なケーキを食べられるとは限らない。 このマッチングが適切に成立するか否かを定式化したのが、【Hallの結婚定理】と呼ばれるものよ」

結婚。

何故だろう。彼女の前でこの単語を口にすると、妙な気恥ずかしさを感じてしまう。

「結婚定理?定理にしてはまたずいぶんとロマンチックな名前ですね」

会計ちゃんの疑問もごもっともだ。

「まぁ元になっているのが結婚に関する問題だからね。 あるN人の男とN人の女がいると仮定して、全員が結婚したいと考えている。 また男側には『この人となら結婚してもいい』リストが用意されている。 この時全ての男性がリストに含まれる女性と結婚できるような、適切なマッチングは存在するするか否か? これが結婚問題ね」

「男側は結婚できれば誰でもいい辺り、なんか切実さが伝わってきますね……」

「ま、一応男性女性両方にリストが用意されてるパターンの問題もあるから、そのあたりはお互い様ということにしましょう……。 さて、男と女でも、数学部部員とケーキでも、問題に対する概念は同じ。 概念を抽象化するために一旦記号で説明するわ」

一度私はホワイトボードに向き合い、つらつらと説明を始めた。

「まず各参加者が食べたいケーキのリストを{ \displaystyle
L = \{L_1, \cdots, L_N\}
}とおくわ。 それで{\displaystyle L }に対応する【完全代表系】と呼ばれるケーキの集合を{\displaystyle C = \{C_1, \cdots ,C_N\}} とおきましょう。 例えば会計ちゃんがショートケーキとモンブランが食べたいと思ったら、会計ちゃんのリストは{\displaystyle L_1 = \{ C_1=ショートケーキ, C_2=モンブラン \} } ってな具合ね。 この時完全代表系の定義から、任意の{\displaystyle C_i} について、{\displaystyle C_i \in S_j} を満たすような{\displaystyle j} が必ず存在するものとする」

聴衆の頭上に「?」が浮かび上がる。

「つまりどのケーキも必ず誰かの手に渡るってこと」

なるほど、と一同は納得したようだ。

「この時結婚条件……つまり適切にケーキをマッチングできる条件は、Hallの結婚定理により以下の式で示されるわ。あ、ちなみに{\displaystyle \bigcup} は和集合の記号よ」

{\displaystyle L} の任意の部分集合{\displaystyle M} について、{\displaystyle | M | \leq |\bigcup_{m \in M} m|}が成立する。》

「せんせ〜よく分かりません〜」

書紀ちゃんが数式に苦手意識を持っているのはいつもの事である。となれば、ここは具体例の出番だ。

「数式だと小難しく見えるかもしれないけど、言いたい事は至極簡単よ。 例えばさっきの会計ちゃんに加えて、書記ちゃんがモンブランとロールケーキ、副部長ちゃんがロールケーキのみを希望したとする。 そしたら数学部員とケーキの適切なマッチングは?はい、副部長ちゃん」

「そうすると……私のワガママによりロールケーキがまず決定されるので、自動的に書記さんがモンブラン、会計さんがショートケーキを食べる事になります」

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「その通り。この時部員は3人、リストに含まれるケーキの数は全部で3つね。数が釣り合ってるので結婚条件を満たし、適切なマッチングが存在するって訳。 ではここでショートケーキとロールケーキを食べたがっている部長ちゃんを投入してみましょう」

「先輩、何で私が調和を乱す存在として投入されるんですか」

「まぁまぁ。そうすると、部員とケーキをどのように組み合わせてもマッチングは成立しないわ。 理由はリストに含まれるケーキの数よりも部員の方が多い……すなわち、結婚条件を満たさないからね」

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「な〜んだ。言われてみれば結構どころじゃなく、アホみたいに当たり前な話ですね〜」

アホみたいに、というのは書紀ちゃんにとって最近お気に入りの修飾表現らしい。

「このようにリストを見るだけで、マッチングの可否が判定できるのがHallの結婚定理よ。 今回のように5人で考えたら当たり前のようにに思えるけど、何百、何千もの男女が与えられた時、適切なマッチングを調べるのは結構骨が折れる作業になるわ。 それをまず『マッチング可能か否か』で判別するのはとっても簡単である。これがHallの結婚定理の役割ね」

ほぇ〜というため息が一同の間から漏れた。

そういえば……後輩にこういった講釈を垂れるのもこれで最後になるんだと思うと、今更ながらこみ上げてくるものがある。 つい昨日まで意識していなかったのに、何だかなぁという心持ちだ。

「さて、では次は秘匿性を保ちながらこれを実行する方法よ」

署名

「とりあえず私がマッチングの組み合わせを考えるとして、まずシンプルに以下のような方法が考えられるわ」

私はホワイトボードに以下の通り書き込んだ。

  1. 各部員が食べたいケーキのリストをメモ紙に書き込み、それを隠して私に渡す。
  2. リストがHallの結婚条件を満たす事を確認してから、私が適切にマッチングする。
  3. ケーキの中身が見えないように、1つずつ箱に詰める。
  4. メモ紙の持ち主にケーキを渡す。

「しかし完全に秘匿性を守ろうとした場合、Step.4の段階で問題になるのが分かるかしら?」

「……あっ、メモ紙の持ち主にケーキを渡す時、先輩が誰にどのケーキを渡したか分かってしまう……!」

「副部長ちゃん鋭い。 プロトコルを構成する際には私のような参加者外の存在、つまりサードパーテーにも入力がバレないように注意する必要があるから覚えておきましょうね」

「……いや、多分思い出す機会はもう無いと思いますけど……」

「ではこの問題を解決するために【署名】を導入しましょう。 署名っていうのは要はサインの事で、ここでは『自分の書いた署名は参加者の中で一意に定まる』『他者に偽造されない』という性質を持っているものとするわ」

「すると……どうなりますですか……?」

「こんな感じね」

先程の内容を書き直すと、こうなる。

  1. 各部員はそれぞれ、食べたいケーキのリストと【署名】をメモ紙に書き込み、それを隠して私に渡す。
  2. Hallの結婚条件を満たす事を確認してから、私が適切にマッチングする。
  3. ケーキの中身が見えないように、1つずつ箱に詰める。
  4. メモ紙に対応する【署名】を箱に書き込む。
  5. 各参加者は(私の見えないところで)【署名】に対応する箱を受け取る。

「といった感じで完成ね。 ここで例えば悪意を持った部長ちゃんが、会計ちゃんのアレルギーを発動させるという良からぬことを思いついて、不正に箱を入れ替えたとしても……」

「人のアレルギーを勝手に罠カウンター扱いしないでくださいよ」

「先輩、私何でそんな立ち回りばっかりなんですか」

「……会計ちゃんがこれは私が書いた署名ではないって宣言すれば、リジェクトを放送できる。そしたら残念ながらプロトコルはやり直しね。 とまぁ、これで安全なプロトコルがひとまずは完成したわ」

「おめでとうございます……」

「じゃあ実際にやってみましょう」

「えっ……?今からですか……?」

「何驚いてるよ。プロトコルなんてものは、実際に動かして挙動を確認してなんぼのもんよ」

「私……別にどのケーキでもいいんですけど……」

「副部長ちゃん、そういう興を削ぐような事今更言わないの」

「えぇー……?」

実行

第三者の役割を担う私は、1つずつ梱包されたケーキ達と共に、部室の外の廊下で一息ついていた。 室内の部員達も、そろそろ食べたいケーキのリストアップを終えた頃合いだろう。

それにつけても……部長ちゃんの様子がおかしい。

何というか、今日の彼女はあまりにもその、おしとやかすぎやしないだろうか? 私の与太話にも関心があるんだか無いんだかよく分からず、時折ぼーっとしているし、あまり乗っかってこない。 こちらから多少無理矢理話題に呼び込もうとしてみたが、反応は芳しくないようだ。

ひょっとして、いやこれは私の思いすごしだと願いたいのだが……彼女は私に対して、何か腹に据えかねている……の、だろうか……?

突如勢い良く開かれたドアの衝突音によって、私のポンダァは砂のようにかき消された。

「先輩、持ってきました」

部長ちゃんだ。彼女が全員分のメモ紙を持参してきたようだ。

本来は彼女に悪意があった場合、プロトコル上ここでメモ紙を盗み見られてしまうのであまりよろしくはないが、 ここではリアルでの信頼性が仮定できるものとしてありがたく受け取っておく。

「ん、あ、ありがと……」

「……」

しまった。

「今日はどうしたの?」とか「具合でも悪いの?」などといった、とりとめのない質問を投げかけることで様子を窺おうと画策していたのだが、 それらの文言がタイミングよく切り出せなかったため、少々気まずい沈黙が生じてしまった。

それに彼女はさっきからもじもじしている。花摘みの季節でも近いのだろうか。

「あの……」

「ん?」

「いえ、何でもないです」

「?」

何かを言いかけた彼女は振り向いて、そのままスタスタと教室に戻ってしまった。

頭上に疑問符を浮かべながら一番上にあったメモ紙を開封すると、

「体育倉庫」

とだけ書かれた文面が目に入った。

私は体育倉庫という名前のケーキがあっただろうかと一瞬考えてから否定し、思わずなるほど、と声に出して彼女の意図を理解した。

付録

送別会終了後。

古びた蝶番の擦れる音がギィ、と響き、私は体育倉庫の重苦しい扉を開いた。

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「お待ちしてましたよ、先輩」

小さな格子窓から漏れ出す黄昏ももはや薄暗く、かろうじて私達の表情を照らした。

私達のような文化部にとってはあまり馴染みのない体育倉庫だが、相手の声が反響してよく聞こえる上、外部から様子を伺いづらいという特性は、 秘密の会話という用途にうってつけの空間である。少しホコリっぽくて空気が悪いのが難ではあるが。

「貴女もまた、ベタな場所を選んだものね」

「先輩も浪漫を感じませんか?」

「どうかしら。このまま用務員のおじさんに鍵を閉められて、新学期まで二人きり、というシチュエーションだけはご遠慮願いたいけど」

「大丈夫です。運動部の友人からスペアキーをお借りしてますから。まぁ本当は違法なんですけど」

「あら用意周到」

「本題に入りましょう」

「えぇ、そうね。用件は?」

「何で……あの日以来先輩は連絡も寄越さず、私を邪険に扱うんですか?」

「……そっ、そうね」

ええと、しまった。なんて答えよう。

「少し意地悪がしたくなった、というところかしら。 私1人だけあんな辱めを晒してしまって悔しいから、貴女を冷たくあしらった時の反応でも見て楽しもうかと思ったの。それだけ」

嘘だ。軽々しく口を開けば、他の数学部員の前でボロが出そうだったからというのが真実だ。

「本当に……?」

「えぇ、まぁ貴女のその平然とした態度を見る限りは、何の効果も無かったみたいだけ……ちょっ!貴女、何泣いてるのよ?」

「いえ……その、ホッとしたんです」

「ホッとした?」

「ここ数日、てっきり先輩に嫌われたのかと思い込んで悶々としていたんです。先輩の了承も得ずにあんなことをしたのは、やっぱりよくなかったって……」

「なっ、何で頬にキスされたぐらいで、私が貴女を嫌いにならないといけないのよ」

「だって先輩の定義していた想い人って……実はloveじゃなくてlikeの意味だったんじゃないかと思って…… 私1人で勝手に先走っちゃったから……実は気持ち悪がられてるんじゃないか、って」

「馬鹿ねぇ、そんなわけないじゃない」

彼女の端正な顔立ちは、涙でくしゃくしゃに歪んだとしても愛くるしかった。 私はそっと頭を撫で、胸元に彼女の顔を沈めてやる。

彼女の嗚咽が落ち着きを見せたので、私達は丸まった体操用マットの上に並んで腰掛けた。

「そうね、私も卒業だからね。貴女も心のどこかでは寂しかったのかしら」

「そうかもしれません」

「随分素直ね」

「今日だけですよ」

「実は私も……今日の貴女、何処か虫の居所が悪いのかしら、と訝しんでたわ」

「そう言われると……心当たりがあります」

「やっぱりね」

「ふふっ」

ひとまず勘違いによる彼女とのこじれは、これで一段落ついたと見てもいいだろう。お互いに一息さえついてしまえば難しい話は何もないので、私達はしばらくとりとめのない雑談に花を咲かせた。

「ん?」

……ふと私は状況を整理し、この空間が醸し出す淫靡な芳香を嗅覚で感じ取った。

「そうすると……結局貴女は、私を好いていると結論づけてもいいのかしら」

「改めて言葉にされるとむず痒いですし、誠に遺憾ですが、概ねそうなりますね」

「それで、この空間には私達しかいないし、ここには誰も来るはずがないわよね」

「えぇ、下校時刻もとっくに過ぎてるし、流石に今日は全部活動が休みですね」

「……へぇ……」

私は彼女のふとももにそっと手を添えた。

「……いや、先輩、あのですね、ちょっと待ってください」

「何よ、相思相愛の者同士が何したって構わないじゃない」

「いやいや、そういうのはですね、もう少し段階と手はずを踏んでから」

「五月蝿いわね。こちとら彼氏も彼女もご無沙汰で、3年間溜まるものも溜まってるのよ」

「いやいやいや、女子高生の何処に何が溜まってるんですか。止めましょ、ね」

「なぁ……ええやろ?……その泣きはらした目元もごっつスケベやん……」

「いやーっ!ちょっと、本当に無理ですって、そんな、っ!」

私は彼女のうなじに右手を滑り込ませ、強引に手繰り寄せてから、自身の唇でその柔らかな唇を貪った。

参考文献

  • 「Hallの結婚定理とその証明」(高校数学の美しい物語) mathtrain.jp

画像は以下のリンクよりお借りしました。どちらも利用規約に則って利用しております。

秘密計算百合

※これは百合SS Advent Calendar 2017の5日目として書かれた文章です。 PEZを用いた秘密計算についてご教授頂きました、品川様に謝辞を申し上げます。 adventar.org

背景

「秘密計算をしましょう」

と、先輩は提案した。

秘密計算。当然ながら私にとっては聞きなれない単語だ。

部活に励む高校生も、帰宅を始めるであろう逢魔が時 ―― ブラインドから漏れ出した黄昏は、私と先輩、私達女子数学部員の表情に縞々を浮かびあげていた。

私は椅子に腰掛けながら読書に一念していたが、どうやら先程から先輩は、隣の机に腰掛けながら暇を持て余していたらしい。

「秘密計算……ですか?」

私は読みかけのページを開いたまま、視線だけ先輩の方に向けた。

「そう、秘密計算」

「何ですか、それは?」

「またの名をマルチパーテーコンピュテェション」

先輩が任意の専門用語を英語で言い換えた時は、大概の場合口が回らなくてカタカナ英語になっている。 こういうところは普段の大人ぶった態度に反し、年相応で可愛いらしい。

「例えば秘密投票。自分が誰に票を投じたという情報を秘密にしたまま、最終的に何票集まったかという結果だけが公開される。これもある意味では秘密計算の一種よ」

「へぇ」

「このように参加者が自分の入力を秘密にしたまま、各参加者の入力同士で計算処理を行い、最終的に何らかの計算結果を共有する。これが秘密計算」

「それをこれからやるんですか?」

「その通り」

「2人で?」

「そう、たった2人で」

人差し指をピッと立ててから喋る先輩のクセは、さいとう・たかを作品から影響を受けたのだろうか。

「これからうら若き乙女2人が放課後の教室で、自身の秘めたる思いを相手に明かすこと無く秘密計算に明け暮れるの。 それって青春の1ページとして、とても素敵な事だとは思わない?」

「別に」

「でしょ…………えっ?」

「……」

「……」

「……分かりましたよ。先輩のいつもの思いつきだったら、いくらでも付き合ってあげますから」

「本当に?」

「ええ」

ちょっと意地悪をしてから優しくしてやると、先輩はすぐに取り上げられたおもちゃが返って来たような表情を浮かべる。 思春期を迎えたウチの妹よりも反応が分かりやすい。

それから先輩は何事もなかったかのように、表情筋をいつものクールなそれに戻した。

「それじゃあ順々に定義していくわね」

そう言いながら先輩は、ホワイトボードに残留する数式の死骸を喜々として消し始めた。

定義

「まず肝となる秘密計算を行うツールね。本来は大規模な計算サーバだったり、特殊な暗号技術が必要だったりするんだけども、 実はANDとOR程度の簡易な計算でよければ、身近な物でも秘密計算を実現できるの」

「一体どうやるんですか?」

「これを使うの」

そういって先輩は鞄から棒状の物体を取り出し、私の目の前に掲げた。 その先端には気味の悪い生物の生首が取り付けられている。

「何ですか、これ?」

「何って、ジャー・ジャー・ビンクスのPEZよ」

「ジャージャーって?」

「貴女ジャー・ジャー・ビンクスを知らないの?スター・ウォーズに登場する愛され不人気キャラよ。私は大好きだけど」

「じゃあペッツは?」

「PEZはキャンディー菓子。このディスペンサー(容器)のヘッドにはありとあらゆる人気キャラクターの頭部が取り付けられているんだけど、 スター・ウォーズの登場人物にちなんだものも数多く存在するわ。 これはこの前ビレバンで買ってきたの」

ヴィレヴァンですか」

「こうやってPEZ後ろの首根っこのところを押し出してやると……」

ジャージャーなる生物の生首が後ろにもげ、中からキャンディー菓子が1つ姿を表した。

「うへぇ、ぶっさいく」

「こうやって1回押すと、1個だけキャンディー菓子を取り出す操作ができるの。逆にキャンディー菓子を押し込んで容器に入れることも可能だわ」

「なるほど」

「この性質からPEZは、外部に中身を見せない【スタック】を構成している事が分かるかしら」

「スタック?」

「そうね……簡単に言うと『物を取り出す時、最後に入れたものが最初に出てくるような入れ物』のこと」

「あんまり馴染みがないですね」

「そんな事はないわ。例えば洗濯物のカゴを思い出してみて頂戴。 洗濯物を取り出そうとすると、必ず最後に入れた洗濯物が最初に出てくるじゃない。 あれもスタックよ」

「あっ、確かに……」

「一般にスタックにはものを詰める【プッシュ】と、ものを取り出す【ポップ】という2つの操作が存在するわ。 PEZで考えると『キャンディー菓子1つを容器に押し戻す操作』がプッシュ、『キャンディー菓子1つを取り出す操作』がポップ。 実際に触って動作を確認してみると理解が深まるわ。さん、ハイ」

「プッシュ、ポップ、プッシュ、ポップ……」

「今回の秘密計算プロトコルは、この中身を見ることができないスタックを用いて構成するわ。さて、次にキャンディー菓子ね」

そう言って先輩はPEZから取り出したキャンディー菓子を1つ拾い上げると、そいつの表面全体を舌先でペロリ、と妙に艶かしくなぞった。

「せっ、先輩……?」

「あぁ、これはキャンディー菓子にビット情報を付加したの。舐められて表面がボロボロになったキャンディー菓子を1、そうでないキャンディー菓子を0と定義するわ」

「何で舐めたんですか?」

「印がつけば何でもよかったわよ。かと言ってマーカーで印なんか点けたら後で食べられないじゃない。もったいないわ」

「先輩が舐めたキャンディー菓子は、可食の部類に含めるんですか?」

「さて、これで秘密計算をする準備が整ったわよ」

スルーされてしまった。

論理積演算

先輩はPEZの中身を一旦空にし、0と1に対応するキャンディー菓子をお菓子の受け皿の上に並べた。

「ではまずANDの計算プロトコルを実行しましょう」

「アンド?」

論理積の事。つまり貴女と私が1を入力した場合のみに限って、結果として1を出力するような演算よ」

「1かける1は1、ってことですね」

「いかにも。じゃあまずは事前準備ね。中身が空のPEZに1のキャンディー菓子を1個プッシュしてから、0のキャンディー菓子を参加者の数、つまり2個プッシュする。 そうするとPEZの中身はどのように表現されるかしら?」

「えっと、先頭を頭の方として[0, 0, 1]ってことですか?」

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「イグザクトリィ」

先輩のこういうところは、たまにイラッとする。

「ではお互いのアクションについて説明するわ。 まずYes/Noで答えられるような質問を2人で共有する。 この場合はYesが1、Noが0に対応すると考えて」

「ふむふむ」

「次に私は貴女にPEZを見られないよう隠したまま

『質問内容についてYesならば1回ポップ、Noならば何もしない』

を実行し、その後PEZを貴女に渡して同じ事を実行する」

「ふむ」

「これでプロトコルは終了よ」

「なんと、あっという間ですね」

「そう、秘密計算はあっという間に終わるの。最後に1回ポップして、その出力が演算結果ということになるわ」

「本当に計算されてるんですか?」

「頭のなかで考えてみればいいじゃない。貴女も数学部員なんだから」

「ええっと、どちらもポップした場合PEZの中身は[1]になるから、最後の出力は1。どちらかがポップしなかったらまだ頭に0が残ってるんで、最後の出力は0。 ……あ、確かに上手いこと計算されてますね」

「そうなの。上手いことできてるのよ。じゃあ実際にやってみましょ。質問内容は……そうね。せっかく秘密計算なんだし、題材は恋バナにしましょう」

「え?恋バナ?」

自称硬派気取りの先輩の口からそういった単語が飛び出すのは意外だった。

「そうね、『想い人が居るか否か』なんていうのはどうかしら。別にプロトコルの練習だから正直に答えなくてもいいわよ」

「先輩って意外と乙女ですよね」

「秘密計算は女の子を少しだけ大胆にするツールなのよ。さ、まずは私から操作させてもらうわ」

先輩は何らかの操作を実行した後、私にPEZを投げて寄越した。 質問内容は想い人が存在するかどうか。 正直に答えてもそうでなくてもいいとは思うが、せっかくなので私は面白い方の答えを選んだ。

「では結果を出力しましょう」

先輩がPEZをポップすると、表面のざらついたキャンディー菓子が零れ落ちた。

「……」

「……」

「つまりは、そういうことね。へぇ、ふぅん、そう、意外ね。貴女にそんな相手がいるなんてね」

「先輩だってお互い様じゃないですか。っていうよりこれじゃ、秘密計算の意味無いじゃないですか」

「じゃあ次はORの計算ね」

「無視しないでくださいよ、先輩」

論理和演算

「貴方は授業でド・モルガンの法則を勉強したかしら」

「確か数学Aで少し齧りましたね」

「じゃあ問題ないわ。{ \displaystyle A \vee B}{ \displaystyle \lnot(\lnot A \wedge \lnot B)} が等価である性質を、先程のANDの計算プロトコルにそのまま当てはめれば完成よ」

「……つまり?」

「PEZへの初期入力として0, 1, 1の順でキャンディー菓子をプッシュして、各参加者の行動は

『質問内容についてYesならば何もしない、Noならば1回ポップ』

とすれば、先程と同様にしてORが計算できるわ」

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「うーん、まぁ確かに多分上手くいきそうな気持ちはありますね」

「じゃ、早速やってみましょ。質問内容は……」

「先輩、待ってください」

「何かしら」

「その質問内容、私に考えさせてくれませんか?」

「えっ……ま、まぁいいけど」

「そうですね、題材が恋バナですからね。……こういうのはどうですか?『自分の想い人はこの部屋に居る』」

先輩の表情が僅かに変化したのを、私は見逃さなかった。

「どうしたんですか?ちゃんとYes/Noで答えられますよね。あ、別に正直に答えなくてもいいんでしたっけ」

「え、ええ、そうね、それでいきましょう。じゃあ私からね」

見るからに先輩の視線はおぼつかないし、顎を人差し指の腹で何度もなぞり始めている。

何故彼女が突如秘密計算を提案し、不慣れにも乙女の会話を始めてしまったのか? 私には早くも答えが分かり始めてきた。

「どうぞ」

先程よりも熟考していた様子が、手渡されたPEZの手汗からうかがえる。 だが私の入力、というより行動は既に決まっていた。

「それじゃあ、結果を出力しましょう」

私がそのままPEZをポップすると、表面のツルツルとしたキャンディー菓子が零れ落ちた。

「っ!?馬鹿な……っ!」

「……先輩。今『馬鹿な』、って言いましたよね?」

「うっ……」

「先輩は質問に対しYesの行動を実行した。なので出力結果は必ず1になるはず。そういう驚きですよね?」

「そうか貴女……わざと2回ポップしたのね……!まさかこの短時間で、相手の入力を探るためにマリシャスな手段を思いつくとは……」

「もっと褒めてもいいんですよ、先輩」

先輩を一枚出し抜いた、という優越感は最高の快楽だ。

「さて、そうなると先輩は質問に対してYesを選択しましたね。どうしてですか?」

「い、言ったじゃない。質問に対してなら別に正直に答えても答えなくても……」

「いいえ、理由は明白。何故なら貴女は私の答えに確信を持てなかったから」

「ぐっ……」

「仮に先輩がNoを選択し、私がNoを選択してしまうと、先程のようにどちらもNoを選択したという情報が両者に共有されてしまいます。 これは私への恋愛感情を悟って欲しいと願っている先輩にとって不利益ですし、何より私から先輩に対する恋愛感情の有無が明白になってしまうんです。 いくら真贋を問わない質問だとしても、白黒がはっきりしてしまう事態だけは避けたい。真実から目を背けたかった。 だから先輩は私の選択に依存せず、出力が1となるようなYesを選んだ。どうですか?」

「えぇ、そうね、そうよ、その通り……」

手の内を晒され、しかも恋慕の情までもが公に晒されてしまった先輩はもはや見る影もない。 彼女は一見涼やかさを装っては居るが、顔を背け、視線を逸し、頬は赤み、しきりに冷や汗をハンカチで拭き取っている。

私は立ち上がり、改めて先輩に向かい合った。

「それじゃ、次の質問です」

「次も何も、プロトコルはもうこれで……」

「先輩は、私が何故2回ポップしたか分かりますか?」

「何故、って……」

「私もです」

「え?」

「私も、先輩の今の考えが知りたかったからです」

そう言って私は先輩の顎に右手をそっと添え、少し強引に引き寄せてから、自身の唇をその柔らかな頬に吸い寄せた。

参考文献